白群色に包まれた冬の午後
雪がしんしんと降る日、祖母が庭で広げていた白い布を思い出す。
彼女は、家族全員の新年の晴れ着を自分の手で仕立ててくれる人だった。
冬の間に染めた布を、何枚も丁寧に干す姿は、まるでその布一つひとつに季節の記憶を封じ込めているように見えた。
その中でも、私の心に深く刻まれたのが「白群色」の布だ。
青みがかった柔らかな白は、どこか空気そのものを映したような透明感を帯びていた。
祖母はあの色を「冬の息遣い」と呼んでいた。
冷たい空気の中、誰もが深呼吸をしては吐き出す白い息。
白群は、そんな一瞬の儚さを捕まえた色なのだと教えてくれた。
ある年の冬、祖母と一緒に初詣へ出かけたことがある。
神社の境内に向かう途中、雪の積もる野原が広がり、その景色が白群の布にそっくりだと私は思った。
ところどころで霜に覆われた草がきらめき、遠くの空は曇天ながらも青い光を含んでいた。
その静けさの中で祖母はふと足を止め、「来年もこの景色を一緒に見られるといいね」とぽつりとつぶやいた。
それからしばらくして祖母は病を患い、あの年が最後の初詣になった。
あのときの白群色の布は、今でも私の部屋のタンスにそっとしまってある。
その布を広げるたび、冬の野原と祖母の穏やかな横顔が浮かぶ。
そして気づくのだ。
あの色は、ただの色ではない。
祖母が縫い込んだ季節の記憶であり、私にとっての心の拠り所なのだと。
冬になると、私は白群の布を手に取る。そして窓越しに、雪の降る庭を眺めながら思う。
この静けさの中に漂う「冬の息遣い」を、祖母も感じていたのだろうと。