<霜降>濃朽葉色の時間

<霜降>濃朽葉色の時間

濃朽葉色の時間

その日は朝から空気が澄んでいた。雲ひとつない空の下、私は古い神社の参道を歩いていた。
石畳の隙間には、色褪せた葉がいくつも挟まり、少し湿った香りが漂っている。
ふと足元に目をやると、深い茶色に赤みを帯びた一枚の葉が目に留まった。

拾い上げてみると、その葉には年輪のように無数の線が刻まれていた。
真新しい色ではない。
どこか時間の経過を感じさせるような、その深い色に私は目を奪われた。
濃朽葉――そんな言葉が頭に浮かんだ。
葉が朽ちていくその瞬間にも、なお美しさが宿るのだろうか。

参道を進むうちに、辺りの木々にもその色が混ざり始めているのに気づいた。
モミジの赤、イチョウの金、そしてそれらが少しずつ色褪せ、混じり合い、深まる。
その色彩の移ろいを目で追ううちに、まるで時の流れが視覚化されたかのような感覚に陥った。

「濃朽葉は、秋が終わりに近づいている証拠なんですよ」
背後から声がした。
振り返ると、掃き清められた境内で、巫女のような格好をした年配の女性が箒を持って立っていた。

「そうなんですね」と答えると、彼女は微笑みながら「でもね」と言葉を続けた。
「朽ちる色は、次の季節に種を蒔く色でもあるんです。
雪が溶ける頃、また新しい芽が出るでしょう?濃朽葉の下には、それが隠れているんです」

濃朽葉色の美しさは、終わりの色ではなく、次を育む土壌の色なのかもしれない。そう思いながら私は葉をそっと地面に戻し、風に揺れる木々の音に耳を傾けた。

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