深支子色と栗きんとん
立冬の朝、空気が透き通るように冷たく、町全体がしんと静まり返っていた。
私は小さな包みを抱えながら、落ち葉の積もる細道を歩いていた。
包みの中には、近くの和菓子屋で買った栗きんとんが入っている。
その店は季節ごとに工夫を凝らした和菓子を作ることで有名だった。
立冬の特別なお菓子として、この時期だけ作られる栗きんとんは、深い支子色を思わせる柔らかな黄色に、ほんのりとした赤みが差している。
まるでその色だけで秋から冬へ移る一瞬の空気を閉じ込めたようだった。
家に帰ると、小さな鉄瓶でお湯を沸かし、濃い煎茶を淹れた。
湯気が立ちのぼる中で包みを開けると、栗きんとんの香ばしい甘さがふわりと広がる。
指先でそっとつまむと、その滑らかな感触に心がほぐれていくのを感じた。
ひとくち食べると、ほっくりとした栗の甘さが舌の上でほどけた。
甘すぎず、しっとりとした風味の中に、秋の終わりの記憶が宿っているようだった。
茶碗を両手で包みながら、私は庭に目を向けた。
枝を揺らす風の中で、深支子色の葉が一枚、ゆっくりと地面に舞い降りる。
その葉は栗きんとんの色とよく似ていた。
柔らかな黄色と朱の間を行き来するその色は、季節の移ろいを映し出すようで、私はしばらくその葉を見つめていた。
深支子色の葉と栗きんとん。
どちらも短い命を持つが、その瞬間の美しさが、人の心に深く刻まれる。
この静かな立冬の朝、私はそんな季節の余韻を味わいながら、もうひとくち栗きんとんを口に運んだ。